腹筋はどう鍛えるべきか? トレーニングの疑問に答え、誤解を正す
強く引き締まった腹筋をつくる!しっかりと鍛えられた腹部は魅力的だが、手に入れるのが最も難しいものの一つといえるだろう。誰もが求めるが、ほとんどの人は自分のものにできない。そのうえ、腹筋のトレーニングについてはさまざまなアドバイスが存在する。毎日トレーニングすべきだという人もいれば、腹筋も他の筋群と同じで休養日が必要だという人もいる。上部と下部に分けてトレーニングしたほうがいいと勧める意見がある一方で、全体が一つの筋肉なのだから分ける意味はないという主張もある。呼吸を止めて動作を行うべきだ、いや、上体を起こしながら息を吐くべきだという相反したアドバイスを受けることもあるだろう。いったいどれが本当なのか?
ジムで以前からいわれてきた知識やアドバイスが、完全には正確でないこともある。ここで説明していくように、「解答」は必ずしも白黒はっきりしたものでは なく、さまざまな例外があることも多い。以下に、腹筋のトレーニング方法としていわれていることを詳しく見ていくことにしよう。そして、この最も間違って 理解されている筋群の一つである腹筋について、誤解を正していこう。
事実?
カットのついた腹筋をつくるためには、単純なクランチを行うのがいちばんいい。
真実:クランチは行っているが、食事は好きなものを好きなだけ食べまくっているというのでは、腹部がふくらんだままでもしかたがない。カットのついた腹筋 をつくるためには、トレーニングより、むしろ食事が重要だ。腹筋を浮き出させるためには、その上にある脂肪の層を取り除かなければならない。トレーニング を行えば筋肉を大きくすること(筋肥大)はできるが、そのトレーニングの成果を見せるためには、体脂肪を減らさなければならないのだ。
筋肥大のためのトレーニングというと、一般的なウエイト・トレーニングのルーティンでは8〜12レップで3〜4セットを行うことになる。腹筋も他の筋肉と 同じで、トレーニングは毎日ではなく、最低でも48時間の間隔をあけなければならない。脚のトレーニングを毎日しようとは夢にも思わないだろうが、腹筋 も、発達させるには休息が必要なのだ。それに、クランチを際限なくくり返すのは筋持久力を高めるトレーニングであり、筋力を高めたり、筋肉を大きくする方 法ではない。したがって、クランチを何回も続けるのは腰痛の緩和や予防にはなるだろうが1、深く刻まれた腹筋をつくるものでも、また、腹部の脂肪を減らす 方法でもないのだ。

腹筋の構造。「6つに割れて」見えるのは、腹直筋という筋肉だ。体幹の屈曲、つまり胸郭を骨盤に向けて動かす作用がある。腹直筋の内層には腹横筋(図示されていない)があり、この筋肉は内臓を内側におさめておく働きをもつ。外腹斜筋は体幹の両側を斜めに走り、腹直筋とともに働いて、体幹の屈曲を助けたり、片側だけが収縮する場合は体幹を横に曲げる、反対側にひねるといった動作を起こす。内腹斜筋の線維は、外腹斜筋線維と直角の方向に走る。内腹斜筋も体幹の屈曲を助けるほか、体幹を横に曲げたり、ひねる働きをもつ。
事実?
腹筋のトレーニングは上部、下部、腹斜筋に分けて行う。真実:この動作は腹筋上部だけを、あるいは腹筋の下部だけを使うという意見は正しくない。どちらのトレーニングでも、使われているのは腹直筋だ。腹直筋の すべての筋線維が刺激されて体幹を前に曲げる作用が起こり、さらに、体幹の屈曲には腹斜筋もかかわっているのだ。それでも通常のクランチのように、腹筋の 下部に比べて上部を主に使う種目がある。また、ハンギング・レッグ・レイズ、リバース・クランチなど、腹筋の下部をターゲットとした種目でも、完全に腹筋下部だけが使われるというのは誤りだ。リ バース・クランチでは腹筋の上部に比べて、下部に重点が置かれているというだけなのだ(同時に、股関節屈筋の働きが大きくなる)。したがって上部、下部そ れぞれに重点が置かれる種目、つまり、脚、骨盤を静止させてそれに向けて胸を起こしていく種目と、上体は静止して脚、骨盤を胸に向けて上げていく種目の両 方を行うようにすべきだ。事実?
腹筋を定期的にトレーニングすることは、スポーツのパフォーマンス向上に役立つ賢い方法だ。真実:一般に腹筋のトレーニングは、床にあお向けに寝た姿勢で、膝を曲げて行うことが多い。だが、スポーツや日常生活で、こういった姿勢で腹筋を使わなけ ればならないことがあるだろうか? もちろんないはずだ。体を安定させ、パワーを生み出す源となるのは、強力な股関節の筋群、腹部および下背部の筋肉だ。 たとえば、野球でホームランを打つスイングのパワーは体幹から生まれ、それが腕に伝えられるのだ。大部分のスポーツや日常の動作では、立った姿勢で体幹を曲げたり、ひねったりすることになるが、そうした方法で腹筋をトレーニングしている人はほとんどい ないのではないか。オーバーユースによるけがの多くは、原因をたどると、体幹のコンロールが不十分で、筋力が不足している場合が多い。しかし、トレーニン グのなかでも、機能的トレーニング、あるいはコア・トレーニングと呼ばれる方法では、筋肉そのものを鍛えるのではなく、強化したいスポーツや日常動作に似 た動作を行う。ゴルフのスイングを向上させたければ、チューブやケーブルを使い、筋力を高めるためには中程度のセット数、レップ数で、あるいはパワーを高 めるためには低レップで、スイング動作を行う。こうしたタイプのトレーニングは代謝も高める場合が多いので、不要な体脂肪を落とし、見た目をよくするのに も役立つ。
事実?
大きなエクササイズ・ボールを使って腹筋をトレーニングするのは、床の上で行うクランチと特に違いはなく、誇大宣伝にすぎない。
真実: スタビリティ・ボール、スイス・ボールとも呼ばれるこのボールは、以前から理学療法で使われていたものだが、最近ではトレーニングに使用するジムが 急増している。価格は安く、まるでおもちゃのようにも見えるが、腹筋のトレーニングにはある程度のメリットがあるようだ。最近の研究で、このボールの上で 上体を起こすクランチ動作を行うと、腹筋の活動量が増加し、運動をコントロールするシステムに対し、床の上で行うクランチ以上の負荷をかけられることが示 された2。また、腹部の他の筋肉に比べて、外腹斜筋の活動量の増加が大きいことも確認された。ボール上のクランチでは、筋肉の活動量だけでなく、脊柱と全 身を安定させるための神経筋の働きによる動作コントロールの方法も、床の上で行う場合とは異なる。腹部の脂肪をとる手段としてではなく、腰痛のリハビリ テーション・プログラムの一環として、また、腹筋のトレーニングをレベルアップさせる方法として役立つだろう。事実?
体幹のトレーニング方法として最もよいのは、水平な床の上で腹筋のエクササイズを行うことだ。
真実: これは健康で、下背部を傷めていない人にとっては、まったくの誤りだ。腹筋のトレーニングをあお向けの姿勢だけで行わなければならないのは、腰を傷 めたことがある人だけで、そうでない人にとっては飽きてしまったり、効果がでないという結果になるだろう。筋力の強化、機能の向上という面では、あお向け のクランチでは使われない動作範囲があるのだ。筋肉が最も大きな力を発揮するのは、通常の長さからあらかじめ少し伸ばされた場合なので、頭と体幹を一直線 にしたニュートラルの姿勢を越えて、15度程度過伸展したところから、上体をカールしてみよう。この動作はもちろん、床にあお向けになった状態ではできな い。床にあお向けになって行う方法だけでなく、チューブ、ケーブル、エクササイズ・ボール、カーブのついたローマン・チェアも使ってみよう。同時に、斜め 方向にひねったり、メディシンボールを投げるなど、異なる動作パターンでも行うようにしよう。腹筋全体をより多く使うだけでなく、この成果が日常動作やス ポーツにも生かされることになるだろう。事実?
腹筋のトレーニングは腰痛を和らげる。
真実: 腹筋が強ければ、確かに腰痛や下背部のけがを予防、緩和できる。だが、腹筋のトレーニング動作のなかには、下背部に不適切な負担をかけるものもあ る。カナダの研究グループが、圧縮力という面から、腰部脊柱に「不適切な負担」をかけずに、腹筋に最も大きな「負荷」をかけられる種目を調べている3。そ の結果、腹部のすべての筋肉を同時に最もよく使う種目はなく、また、体力レベル、下背部の障害の既往歴、トレーニング・レベルといった要素が大きく関係す ることが認められた。筋肉に最も大きな負荷がかかるのは、膝を伸ばしたシットアップと、膝を曲げて行うシットアップだったが、どちらも腰椎に加わる圧縮力 が大きかった。こうした種目は、ある程度のトレーニング経験がなければ行うべきではない。小さい可動範囲で上体をカールする動作は、脊柱を圧縮する力は小さいが、腹筋への負荷も小さい。つまり、初心者や背中、腰をいためたことのある人に適した種目ということになる。腹斜筋に非常に大きな負荷をかけ、脊柱も圧縮しないのに、ほとんど行われていない種目が一つある。横向きに寝て、肘と前腕、脚を床につけて、体幹、腰を持 ち上げて体をアイソメトリックに支える方法だ。この種目は下背部の腰方形筋(脊柱を安定させる筋肉)の強化にもつながる4。腰痛がある人が避けるべきエク ササイズとしては、あお向けに寝て行うレッグ・レイズ(膝を伸ばしても、曲げても)、クロスオーバー・クランチ、ハンギング・ニー・レイズがある。
事実?
腹筋のトレーニングでは、トップ・ポジションに近づいたときに、筋肉を収縮させながら息を吐く方法が最もよい。
真実: メル・C・シフ博士は、著書『Facts and Fallacies of Fitness(フィットネスに関する事実と誤り)』のなかで、健康な人の場合は、コンセントリック収縮(ポジティブ動作の段階。重力に対抗して体を引き 上げていく)の前に息を吸い、そのまま息をとめて動作を行うようにとしている。トップ・ポジションで強く息を吐き、腹横筋と骨盤底の筋肉を強く収縮させて から、ゆっくりとエキセントリック収縮(体を下ろすネガティブ動作)を行う。ポジティブ動作中に息を止めておくと、腹筋が発揮する力が最大になり、背骨を 守ることができる。しかし、高齢者や心臓血管系に問題がある人、血圧が高い人は、呼吸を自然に続け、止めずに行わなければならない。事実?
膝を曲げて、足を何かに固定しておくと、下背部を傷めずに腹筋を鍛えるのに役立つ。
真実: 足、あるいは脚を固定して腹筋のトレーニングを行うと、腹筋ではなく、腸腰筋(股関節屈筋)が動作の中心になる。股関節を屈曲して、上体を持ち上げ る動作になるのだ。さらに、足を何かに引っかけておくと、背中が反り、腰椎に剪断力がかかる。また、研究の結果から、膝を曲げてシットアップをしても、腰 椎への圧縮力は大きくは変わらないことが示されている3,5。したがってシットアップではなく、クランチを行うようにすべきだ。- 関連記事